失敗事例1 自筆遺言が争いの種になった事例
Aさんには、長男と次男がいました。配偶者には残念ながら先立たれていました。
Aさんは、老後になって体調を崩し、長い間、養護老人ホームや病院で過ごしていました。この間、Aさんの面倒を見てくれたのは、長男夫婦でした。
そこで、Aさんは、長男と長男の妻に対し、御礼がしたいと思い、多くの財産を相続させる旨の自筆証書遺言を作成しました。
Aさんの死後、自筆証書遺言が見つかり、長男はこの遺言に従って遺産を分割しようとしました。
しかし、次男がこの遺言の有効性を争い始めました。
次男は、「父(Aさん)は、既に自分で遺言を書く体力はなかったはずだ。」「仮にあったとしても、父(Aさん)の意識がもうろうとしたときに、長男が書かせたに違いない。」などと主張したのです。
Aさんが、病床で必死に書きあげた文字は震えており、本人の筆跡かを簡単には判断できないことが、争いに拍車をかけました。
★この事例のポイント
遺言の有効性を争う紛争は、裁判となり、最高裁まで争われることがあります。
最高裁まで争っているうちに、親族の絆はバラバラとなり、精神的にも疲労しきってしまいます。
この事例は、Aさんが、早めに弁護士に相談すれば回避できた紛争でした。
弁護士がAさんの考えを文書にまとめ、公正証書遺言の作成の用意をすればよかったのです。
公正証書は、病院などでも作成することができますし、文書を自分で書く必要はありません。また、公正証書の作成には、相続人以外の証人が立ち会いますので、後々に、遺言の有効性が争われることはなかったでしょう。
失敗事例2 遺言を作っておかなかったために会社経営が不安定になった事例
Bさんは、自営業から法人成りした会社を経営していました。
Bさんには、4人の子どもがいましたが、「将来的には、一緒に会社を支えてくれている次男に会社を継がせるつもりである。」と常日頃から口にしていました。
しかし、Bさんは、次男に会社を継がせる旨の遺言を書く前に他界してしまいました。何の前触れもない最期でした。
Bさんの遺産には、預貯金もありましたが、大きな価値を有していたのは会社の株式でした。そのため、次男以外の相続人も、株式について法定相続割合に従った相続を主張しました。
常日頃、「次男に会社を継がせる。」と口にしていても、遺言としての効力は全くありません。
結局、会社の株式は、4人の相続人が、等分で相続することになりました。
会社内の事情を全く知らない3人の大株主を抱えることになったことで、株主総会は空転し、会社の経営継続は非常に困難なものとなってしまいました。
★この事例のポイント
会社の株式や、事業に用いる財産は、法定相続の割合に従って分割をすると、事業継続が困難になることがあります。
遺言は何度でも書き直すことができるのですから、Bさんは、万が一に備えて遺言を作成しておくべきでした。遺言の記述方法を工夫すれば、遺言作成時から株式数が変わったとしても、遺言の効力を維持することは可能です。
また、遺言と合わせて、少しずつ次男に株式を譲渡していくといった、生前対策を行う選択肢もありました。
事業を行っている方は、残される親族のために、特に早めに生前対策をしていく必要があるといえます。