葬儀代に預貯金を使う方法-遺産分割協議前の引出し

改正法前の被相続人の預金の扱い

亡くなった被相続人の財産には多かれ少なかれ預金が含まれることが一般的です。あるいは、相続財産は預金のみという事もあります。

一見、「不動産や株というと扱いに困るが、預金なら助かる。」と感じるかもしれません。ところが、実際には扱いにくい側面を持っていました。

というのも、平成28年の判例によって「預貯金も遺産分割の対象となる」とされたためです。

この判例により、相続財産である預金を引き出して使えるようになるのは「遺産分割が終了してから」になってしまいました。

預貯金を遺産分割の対象とすること

=遺産分割成立までは、預貯金を引き落とすことができない

=被相続人に関する出費は、遺産分割が終了するまで相続人が負担

遺産分割協議は、相続税の申告期間に間に合わせるために10か月以内に終わらせることが原則とはなります。しかし、遺産分割協が揉めますと、遺産分割協議が整理するまでに数年かかることも決して珍しいことではありません。

そうしますと、被相続人が、被相続人に関する出費を数年間負担しつづけることになり、非常に困ることがありました。

そこで改正法は、「預貯金の引落しは、遺産分割前においても可能」とする条文が設けられることになりました。
以下では詳細をお伝えいたします。

預貯金を遺産分割の対象とすることの問題点

1.被相続人の葬儀費用に預貯金を活用できない

被相続人の中には、自身に関する葬儀やその他の手続に関して子ら相続人に負担をかけたくないという理由から貯蓄をされていた方もいらっしゃいます。しかし、預貯金が遺産分割後にしか手を付けられないために、そんな思いとは裏腹に、相続人たち葬儀に関わる様々な費用の負担を強いられてきたのが実情です。

また、相続人が複数人いるケースでは、葬儀に関する負担について、葬儀をとりおこなった後に争われることも珍しくはなかったのです。

すなわち、「葬儀に関する負担を相続財産で支払うのか(相続人全員が分担すするのか)、喪主が負担するのか。」という争いです。

例えば以下のような主張です。

・葬儀費用は当然、相続人全員で負担するべきである。

・葬儀費用の負担は、喪主が負担するべきである。

・葬儀費用が高すぎる。葬儀を注文した者が負担すべきである。

そして、葬儀費用の負担がいったん争われますと、それが悪感情となり、後の遺産分割協議も進まず、相続費用の負担をした者が長期間負担をしつづけるという悪循環も、しばしば起こっていたのです。

2.被相続人の債務を自腹で負担する必要

相続は、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(債務)も対象です。
そして、原則、債務の相続は被相続人の死亡時です。したがいまして、遺産分割協議が終わらなくても、債務を請求されることがあります。

 

遺産分割協議というのは、年単位の時間を要する場合もありますので、相続人たちはその間、相続する被相続人の債務の出費を自身の財産によって賄うことになります。

3.遺産分割協議における相続人間のパワーバランスを崩す

また、1や2などで、出費があったとき、元より資力のある相続人にとってはなんでもないことでも、資力の乏しい相続人にとっては相応の負担となることがあります。

すると、ここで相続人間のパワーバランスが崩れることがあります。

負担が重荷に感じる相続人が、早めに遺産分割協議書をまとめて金銭を手にしたいと感じるのです。
このため、資力のある相続人が「早く預金を引き出したいなら、この条件で遺産分割協議書に同意しろ」と自身に有利な条件を押し付ける事例が散見されたのです。

改正による変化

このような問題を解消するべく、今回の法改正では、遺産分割協議にかかわらず一定額は預金の払い戻しを受けられる仕組みが作られました。

方法は2つあります。それぞれ見ていきましょう。

1.家庭裁判所の審判を介さない取得

民法909条の2と、法務省令(平成30年法務省令第29号)に規定された方法です。

遺産に属する預貯金のうち、1つの金融機関につき150万円を上限として、「相続開始時の預貯金額×1/3×法定相続分」については家庭裁判所の判断を経ることなく払戻しを受けることができます。

①ひとつの金融機関につき150万円が上限

②総額は、相続開始時の預貯金額×1/3×法定相続分が上限

法定相続分の1/3ないしは(一つの金融機関につき)150万円という上限はありますが、葬儀費用や生活費としては、ある程度の助けになると言えるでしょう。

 

2.家庭裁判所の審判による取得

家事事件手続法200条第3項によって定められた方法です。

各相続人が家庭裁判所へ、遺産の分割の審判または調停を申し立て、必要と認められた場合、共同相続人の利益を害さない範囲で、預貯金の全部または一部を取得することができます。

ここで裁判所が認める場合というのは、「必要があるとき」ですので、「相続財産に属する債務の弁済のため」や「相続人の生活費のため」など、何らかの事情がある場合ということになります。

①遺産の分割の審判または調停の申し立てがある

②預貯金債権を行使する必要がある

③他の共同相続人の利益を害しない範囲

家庭裁判所が定める額に、明確な上限こそ設けられてはいないものの、「他の相続人の利益を害さない範囲」という限定がありますし、家庭裁判所が「必要がある」と認めるというのはかなり限られるでしょう。

また、こちらの方法は家庭裁判所への申し立てることが前提となるため、手間と時間がかかってしまうことがデメリットです。

遺産分割前の預貯金の引き出し

現在は、以上の2つの方法によって、遺産分割の終結を待たずに預貯金を引き出すことができるようになっています。

悲しみごとは急に訪れるものです、気持ちの準備はもちろんのこと、諸手続にかかる経済的な準備が十分でない場合もあるでしょう。また、預貯金を残す側としても、終活として預貯金を残すという方もいらっしゃると思います。

上記の方法、特に「裁判所を介さない取得」は上手に活用して、対処していくことが良いでしょう。